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エルビラ・アンドレス、多色性
エルビラ・アンドレスのいるサロンに向かう廊下に再び出てみると、別の練習場から『ティエンポ』のリハーサルが聞こえてきた。おそらく、例の「脈」を見つけるための練習に励んでいるのだろう。BNEのディレクターは、ここでは振付け師として作品『コローレス(多色)』の準備にかかる。雰囲気は、そう激しさを帯びたものではない。三角形の配置に並んだ踊り手達の間にはいって、エルビラ・アンドレスは、ポジションや動きを決めていく。「スペインバレエの世界を任された、フラメンコも踊れるダンサー」とも形容できる彼女はこう語る。「もう何年も前に、作品『ムヘーレス』で私自身の振付けを発展させることで、私の振付け師としての道は始まりました。今度は、作品『コローレス』につなげていきたいと思います。この作品は、多様性の探求に着想を得ています。」そして「物事は、白か黒かという決め方はできないと思います。色んな色があるのです。そして色合いには、果てしない豊かさがあって、色同士が一緒にあるか別々にあるかによって、別の実体となったり、お互いを補ったり、助け合ったり、そして時には邪魔し合ったりするということを発見しました」。「色のグラデーションは、多様性を必要とする人生と人間の本質である」。
 BNEと『コローレス』をリハーサル中のエルビラ・アンドレス
この法則を、バレエ団のために作られた作品に盛りこんでいく。
先に紹介した2つの新しい作品の初演と同時に、カンタブリアの州都にあるフェスティバルホールでは、その他の作品も同時に上演する。ひとつは、昨夏
アントニオ・カナーレス,が振付けし、日本で初演したペアのバイレによるタラント。もう一つはテレサ・ニエト、フロレンシオ・カンポスによって実現した、フラメンコとコンテンポラリーの混合の成果といえる作品『マレアス』。この作品は既に、前のシーズンにマドリードのサルスエラ劇場で初演している。この作品『コローレス』では、「私の目標を達成します。目標とは、スペイン舞踊とフラメンコという、二つの違ったまなざしの豊かさを紹介することです。今回の場合、我々4人は、いずれも若くして成熟している振付け師です。まさに、新しい世代です」。アントニオ・カナーレスの振付けは彼の個性が良く出ているし、ホアキン・グリロはフラメンコらしさがとてもよく強調されている。「このすばらしいバイラオールは、とても個性にあふれています。私は彼と仕事ができることを本当にうれしく思っています。彼は非常に特別で、力強さをもった人間だからです」。
どんな見方をしようと、スペイン国立バレエ団の転化において、フラメンコが主役としての役割を果たしているのは明らかだ。エルビラ・アンドレス本人も、「フラメンコは、職業としてだけでなく、私の人生そのものに関わってきています。私は、バイレ、カンテ、トーケの熱狂的なファンでもあります」と語る。その彼女に、フラメンコは現代スペイン舞踊の中心にあるのか、と質問を投げかけてみると即座に考え始めた。エルビラ・アンドレスは、「今この時点において、フラメンコがより中心的な存在であることは確かです。ですから、BNEはも、現況を反映させる必要があります。ただ、それはバレエ団がフラメンコ以外の踊りを扱わなくなるということを意味するものではありません」と語る。
 BNEと『コローレス』をリハーサル中のエルビラ・アンドレス
バレエ団のディレクターは、この問題を真剣に受け止め、彼女のスペイン舞踊を守るために闘う姿勢も明らかにした。「フラメンコのブームというのは、その他のスペイン舞踊をなおざりにすることを意味するものではありません。その他の舞踊は成功しない、ということでもありません。なぜなら、我々は舞踊の多様性のためにも闘いますから。スペイン舞踊がより良いとか、悪いとかの問題ではありません」。そしてこのように危惧もする。「愛着による効果にも注意しなくてはいけません。というのも、観客はフラメンコを愛していますし、フラメンコに夢中になっています。でも、もしかすると、フラメンコに夢中にまりすぎるあまり、黄金の卵を産む鶏を殺してしまうようなことにもなりかねないだろうか、と自問します。さらに、誰でもフラメンコを知っているのだろうか?それともそれぞれがそれぞれに得意とするものを演じるのが一番よいのでは?あるいは、なぜフラメンコばかりが目立つのだろう?なぜ人々はフラメンコを要求するのだろう?そんな質問を次から次へと投げかけるうちに、疑問は転がるボールのようにどんどん膨らんでいきます。これが私の疑問ですが、今は宙に浮かんだままです」。
宙に浮かんだまま。それは飛び散る汗の粒が空中で蒸発するのと同じ。プランタ、タコンの靴音と同じ。ホセ・アントニオ・ロドリゲスのギターの音色と同じ。ルベン・ダンタスの出すカホンの音と同じ。ホアキン・グリロの微かな靴音と同じ。そしてそれは、四半世紀前から続くスペイン国立バレエ団の掲げる、メイド・イン・スペインのバイレのショーウィンドーにのぞく、創作者たちのアイデアと同じなのだ。
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